家畜でした

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家畜でした

 唐突に視力を失ったかのように闇の世界が広がった。  時刻はまだ昼の1時。  人々は部屋の明かりをつけて、懐中電灯を片手に建物の外に出た。 「一体何が起きたんですかね?」住民は見ず知らずの人と話をしながら空を見上げた。  青空が見えなくなるほどの巨大な宇宙船がいくつも浮かんでいた。  見渡す限り、地平線の彼方までそれはひしめき合っていた。   空を見上げていた人々は一斉に両手で頭を押さえた。大小さまざまな耳鳴りが頭の中でハウリングのように響いたかと思うと、突如機械的な声が頭蓋骨の内側から聞こえてきた。 「聞こえますか? あなた方の言葉で言うなら、私たちは宇宙人です」  宇宙人の声は、人間の脳に直接伝わっていた。 「あなた方は単純な言語しか持ち合わせていないので、簡単にチューニングできました。え?単刀直入に言いましょう。あなた方は家畜です」  人々は口を開けたまま宇宙船を見上げ、次の言葉を待つしかなかった。 「この星はファームです。私たちがあなたたち人間を育てたんですよ。今が食べごろです。これ以上育てると、中途半端な科学力で地球外へ逃げてしまう可能性があるし、そうじゃなくても仲間割れを起こして殺しあっている。非常にもったいない」  ここでようやく人々は悲鳴をあげながら逃げ回った。  家の中に駆け込む者や車に乗って走る者など様々だったが、どこに行こうが宇宙人の言葉は容赦なく頭の中に入り込んできた。 「元々は地球で恐竜を育てていましたが食べ尽くしてしまい、次に繁殖能力の高いヒトの種を植えたんです。あなたたち人間からすれば気の遠くなる話かもしれませんが、地球の1万年は私たちにとって1日程度の価値しかないのです」  立ち尽くして泣き叫ぶ者や、ひざまずいて神に祈る者が道をふさぎ、またたく間に道路は車で渋滞してしまった。 「あなた方人間は動物を殺す時に苦しまないように配慮しながら屠殺していた。我々もあなた方を見習ってできるだけ優しく狩って苦しまないように殺すつもりです。安心してください」  そう言い残し、巨大な宇宙船群は一瞬で目の前から姿を消した。元の青空と眩しい太陽が現れると、人々は泣きっ面を、さらにしかめた。
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