第1章 モーツァルトはスパイ?

6/10
前へ
/10ページ
次へ
後にマリアテレジアも自分達の情報が 外部に漏れている事実に気づき、 ハプスブルクのシェーンブルン宮殿には 二度とモーツァルト親子を 寄せ付けなかった。それで女帝は、 『乞食親子が、欧州中を馬車で 這い回っている』と嫌悪しています」 「何故、コロレド伯爵が各国国王の 情報を欲しがったのでしょうか?」 「一番欲しがったのはローマバチカンの カトリック法皇でしょう。ヨーロッパは キリスト教統一宗教ですから、二つに 分裂して対立している状態は 法皇にとってもマズイ」 黄色も、納得したように頷く。 「先生の説では、音楽家によるスパイが いたそうですが」 山岸が頷きながら腕を伸ばしキーボードに 触れると、黛敏郎氏の写真が表示された。 「米ソ冷戦時代、スパイだった彼は 音楽学校を卒業してパリ国立音楽院に留学 すると、音楽の傍らCIAの補助員を 担当していました。モーツァルト親子も 長旅の途中に金銭不足となれば、親子の あとを追って金銭を渡していた仲間が いた筈です。それによって黛氏はKGBから 命を狙われた挙句、1年で留学を切り上げ 帰国したのです」 「黛氏もスパイだったと?」 声が裏返る黄色に対し、頷く山岸。 「珍しい事ではありません、スパイは 他にも沢山います。 1954年、昭和29年に 旧ソ連へ密入国した芥川也寸志氏も そうです。オーストリアから地下通路を 通って密航に成功しました。 彼は、スターリン政権時代の宮廷音楽家 ショスタコーヴィチにも会っていますよ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加