第1章 モーツァルトはスパイ?

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冷戦時代の情勢を鑑みれば、密入国は スパイ容疑をかけられた後、処刑が 当たり前の時代に政府の要人と会談し、 無事生還出来た事象は、殆ど奇跡としか 言わざるおえない。 「唯一国王の傍にいても許される存在、 それが音楽家・・・ ただ、1953年にスターリンが亡くなった 翌年に決行された事が、ラッキーだった かも知れません」 自説に揺るぎない自信を持つ山岸に、 賞賛を持って支持する黄色。 「先生の説もごもっともかもしれません」 黄色がそう言うと、パソコンから 聴き覚えの無い曲が流れてきた。 「この曲は?」 「芥川也寸志作曲、『弦楽の為の三楽章 トリプティーク』ですよ。 私は、この曲の第ニ楽章が好きでしてね」 山岸がほくそ笑むと、辺りに穏やかな 空気が2人を包み込む。 「芥川也寸志さんと言えば、女優の 草笛光子さんとご結婚されていた?」 黄色の問いに、頷く山岸。 「だけど、今ひとつクラシック音楽が」 照れたように、頭を掻く黄色。 「この音楽はハイドンが開発した ソナタ形式というプラットフォームでしか 出来てませんから、それ程難解な音楽でも ありません。 提示、展開、再現、それが A-B-A-B-A という形になる訳ですね」 思わず視線を逸らす黄色。 「音楽に惹かれたきっかけは?」 「クラシック音楽は、私の恩人なんです。 聴いているだけで幸せな気分になるんですよ」 虚ろな瞳で虚空を見つめる山岸。 「この音楽を聞くと、神が現れるそうですが」 「私も見ました、ブルックナー作曲、 交響曲第9番ニ短調の第3楽章 アダージョです。 コンサートホールで聴いた後、 夢の中にそれは現れました。 アインシュタイン博士が晩年、神の正体を 探究していました。博士の研究結果は、 神とはプラズマの塊のような丸い球体と 結論づけました」 「仏像のような人の形は?」 「いえ、私が見た神は光の球体です。 そして、神はいろいろな真実を教えてくれました」 つい、身を乗り出す黄色。 「まず、太陽は360度燃焼していますが 光と熱は地球の方角しか放出していません。 裸電球であるはずの太陽が、灯台と同じ 地球の方角しか照らしていないのです」 「それは本当ですか?」 黄色の問いに、頷く男。 「太陽の傍に太陽と同じ大きさの惑星が あって、光と熱を遮断してるんです。 その惑星を肉眼で観る事は、 出来ませんがね」
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