一章 出会い

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女の子は下心や狡猾さが感じられる生き物だし、子供は時として残酷な言動を大人たちに吐き出す。犬や猫は、意志の疎通が難しい。それに引き替え…。よく見ると、確かに小さな虫たちは可愛らしかった。無垢で純粋で、取り繕っていない分だけ。するとどういう訳か、雄二の前にいる萌が虫と重なって見えた。 雄二のアパートへ萌が遊びに来るようになるまでに、そう時間はかからなかった。朝は雄二の為に夕食を作り、朝食を作り、弁当を作った。その手際の良さと料理のおいしさに雄二は感激した。だが、一緒にいる時間が長くなるにつれ、次第に雄二は萌の性格に疑問を持つことが多くなった。 例えば、異常とも思えるスローペース。しゃべり方、動き方、そして思考時間が萌は大幅に人より遅いのだ。料理はあんなにテキパキしているのに。また動物や昆虫に対する興味はこれまた度を超していた。デートは動物園や公園が殆どで、生き物を見ている時の萌の姿は恍惚としていた。ある意味、幸せなぼけ老人にも見えた。 (こりゃ変だぞ。何か違う)と雄二は思った。トロトロした話し方を、雄二は優しさと勘違いしていた。 (でも違う。ズレてる。そう、本質的にこいつ、ズレてるんだ。何か人と違うとこあるわ) そう感じた途端、雄二は急激に気持ちが冷えていくのを感じた。そして、これ以上彼女と付き合うのは危険だと感じた。付き合いをやめなければならなかった。それも早急に。だが雄二の優柔不断な性格もあって、言い出すきっかけがなかなか掴めなかった。萌は今では毎日のように雄二の部屋へやって来て、一切の家事をこなしていた。家事を終えたその後は、まどろむように歌を歌ったり、どこからか捕まえてきた昆虫を床に這わせて眺めている。
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