第二章 立てこもり

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まぁいいさ、とりあえず萌は恐らく中にいないだろう、と自分に言い聞かせた。その日はいつもより早く寝床についた。そして、夜中の二時か三時、雄二は目を覚ました。部屋のどこかから、泣き声が聞こえる。真っ暗闇の中、低く、か細く、声を押し殺したような忍び泣きが聞こえていた。雄二は耳を澄ました。部屋の一体どこから、泣き声が聞こえているのだろうかと。だが、神経を集中させるとたちまち声は聞こえなくなってしまう。雄二の背中に戦慄が走った。雄二は床の中で半身を起こし、クローゼットに向かって呼びかけた。 「萌かい?…そこにいるのか?」 しかしその声は声にはならなかった。金縛りに遭った時のようにスカスカになってしまうのだ。雄二の言葉は息と共に闇の中に消えて行った。そうしている内にいつしか、泣き声は止んだ。固まったまま闇の中で目を開き、クローゼットを凝視する雄二だった。 やがて窓から光が射し込み、部屋を明るく染め始めた。雄二も徐々に落ち着きを取り戻した。凍っていた体が温まり、手足に感覚が戻ってきた。 雄二は起き上がり、クローゼットに近づいて声をかけてみた。返事はなかった。雄二は考えた末にこう思い込もうとした。あの泣き声は、自分の不安定な心がもたらした幻聴だったのではないかと。
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