第二章 立てこもり

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会社では萌の長期欠席が続いていた。聞くところによると、萌は無断欠勤では無く、ちゃんと届け出を出していたのだそうだ。だが最近、有給も使い果たしてしまったそうで、萌はいずれ退職を余儀なくされるだろうと噂されていた。 雄二は連日、帰宅するのが憂鬱だった。いるかいないか解らないクローゼットの中の萌。それが次第にに重く、心にのしかかっていた。 雄二はまず部屋に入ると、買い物袋と書類の入ったバッグを降ろしてクローゼットに目をやる。そして、「萌いるの?」と呼びかける。 そこから声が帰ってきたことはなかった。だが、そう思うのもつかの間、雄二が部屋の中で寛ぎテレビに見入っている時に、ほんの一瞬、フフフッと、雄二の後ろで誰かの声がすることがあった。雄二はショックで動けなくなる。そして、 「いるのかよお!萌!」と声を張り上げる。その後は前と同じく、物音一つしないのだ。雄二は自分の神経が信じられなくなっていた。ここで起きていることが本当に事実なのか、あるいは自分の幻聴なのか、自信が持てなかった。いっそのこと警察に知らせてこのクローゼットを外してもらったらどうかと考えた。(そうだ、それがいい。今までどうして考えつかなかったのだろう)雄二は嬉しくなって、クローゼットに向かって勝ち誇ったように言った。 「おい、お前。いるんだろう?いるんならよく聞いとけ。いいか。俺はな、こんな生活はもう嫌だ。お前、何でそこに住み着いてるんだ?嫌がらせか?それともストーカーのつもりか?自分のしていることが法に触れてる解ってやってるんだろうな?良く聞け。俺は決心した。警察に知らせる。そしてお前をそこから引きずり出してやる。お前は不法侵入と何かの罪で刑務所行きだ。ふっふふ、分かったか、ざまぁみろ。もう一度言うぞ。あと三分待ってやるからな、そこから出て行け。分かったな?」 そうして雄二は腕時計を見て三分待った。だが、相変わらず、返事は無かった。 雄二は再び動揺した。なんだ、いないのか。だとしたらやっぱり自分は幻聴を聞いてるのか。雄二は訳が分からなくなった。しかし念のためと思って、気を取り直して言った。 「おい、いないのか?じゃあな、もしそこから出にくいのなら、中からノックしてみろ。いいな」
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