私のグリム先生

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微かに揺れる薄い背中を眺めた。カタカタとキーボードを打つ音、何度も吐かれるため息。悩むように何度もかき乱された髪はあっちこっち好き勝手に跳ねまわっている。彼の左右にはいくつもの資料が山となり、そのうちのいくつかは雪崩を起こして床に散らばっている。 「先生、」 ほとんど呟くような私の呼び声に彼が振り向くことはない。 小栗ムツ先生、通称グリム先生は大人向けの童話作家だ。大学以来の再会を果たした彼は立派な作家になっていた。作家になれなかった私は、キーボードを打つ彼の後ろ姿を座り込んでただ見ていた。何とも表現しがたい関係性に頭を悩ませつつも、今ある幸せを崩したくない。 ********** 童話作家のグリム先生と作家になれなかったアンデルセンの話。親愛以上恋愛未満。
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