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「新田(にった)、明日が何の日か知ってるか?」
幸一(こういち)が、私に聞いてきた。明日? 明日って言ったら……。
「私の誕生日?」
「あ? そういえば、そうだったな」
「そう言えばって……」
「でも、明日は俺のケーキ作りの大会なんだよ」
そうだ。幸一、テレビに出るんだっけ。小さい頃は一緒に公園で走り回ってたような子だったのに、今はスイーツの魔術師なんて呼ばれちゃう程の存在になってしまった。時の流れは、彼と私の距離をちょっとだけ遠ざけるようだった。……少し、寂しいな。
「俺は明日! 絶対に大賞を取る!! お前も誕生日だろ、今年の願望とかねーの?」
誕生日だろと言われても……ただ一つ年を取るだけだし。
特にないと答えようと思った私だが、そこへ一つの考えが浮かぶ。
「私、恋したい!!」
「……え?」
幸一からの眼差しは、とても冷え切っていた。
・ ・ ・
恋する宣言をして幸一からドン引きされてから無事授業も終わり、私は帰り支度を整える。
「無理すんなよー恋する少女」
「バカにすんな! 思うのは勝手でしょ」
負け犬程度の言葉を言い返し、私は足早に学校から出た。
「よっ」
校門を出ようとした時だった。見覚えのない白髪の青年に、急に声をかけられたのだ。思わず自分以外の人に声をかけられていると思った私は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「お前だよお前。行くぞ」
手を引かれ、私は見知らぬ青年と共に、バスへと乗り込んでしまったのだった。
・ ・ ・
「あの、貴方は……」
最後尾から一つ前の二人用席に座らされ、私は彼と話す。
「恋、したいんだろ?」
「え?」
「だから、恋。したいんだろ?」
「う、うん」
私が頷くと、彼はにやりと笑い、いきなり片手を壁際をドンッと押し付けた。
「俺が教えてや、うわ!」
バスの中で激しく動いたりするから。バスが凸凹道を進んだらしく、大きく揺れた彼は、とうとう私に抱きついてきた。
「……どうだ、キュンキュンしたろ?」
「しないよ」
「え」
「そもそも私、俺様みたいな人苦手なの」
彼は絶句。私は心の中で勝った!! と謎の優越感を覚えながら、バスを去っていった。
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