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ふらりふらり、昼間の花街を歩く。夜の帳が下りるまでは、普通の街と何ら変わらない。
申し訳程度の荷物、それから肩に担いだ大きな葛籠つづら。慣れ親しんだ三味線は店に置いてきた。
「いよぉ、まだ日ィも高ぇのにご苦労なこったね。」
「佐吉……?その大荷物は一体なんだ。」
のらりくらりと門をくぐり抜けようとするが、馴染みの門番に見咎められる。じぃ、と肩に担いだ葛籠を注視されニイと笑ってみせる。
「なんだァ、中身に興味があんのか。」
「随分と大きな葛籠だな……。人一人・・・入りそうなくらいじゃねぇか。」
「まっさかァ。こん中に女でも入ってると思うか。馬鹿言っちゃいけねェ。手前勝手に転がり込んだ俺を拾ってくれた店から女をくすねるわけねェだろ。んな恩を仇で返すような真似する奴と思われるたァ心外だなァ。」
からからと笑い飛ばし歩を進めようとするが、門番は道を塞ぐ。
「ならその葛籠、開けてみな。」
「ふうん、そんなこの中が気になんのか。いいぜ、お前みてェな奴にゃ必要なもんだ。値段次第じゃあ売ってやるよ。」
「売る?」
「お前みてぇな女日照りにゃあ必要なもんだろ?廓にいると兄さんたちがあれこれと使い古したのを下っ端のおれにくれんのさ。こいつがなかなか量があってねぇ、折角だから小金にでも替えようかと思ってね。」
「ああ?」
「春本。女ァ紹介すんのはちぃと厳しいからこいつで我慢してくんなァ。」
「テメッ……!とっととどこへでも行きやがれ!もう帰ってくんじゃねェ!」
「そいつァ悪かったな。今生の別れたァ寂しくなるぜ。」
顔を真っ赤にしながら怒鳴りつける門番の横を冗談交じりにするりと抜け、門の外へと踏み出した。
アチラとは違う、昼間から活気のある街を葛籠を担いでフラリフラリ。
彼女なら活気のある普通の街が見たいと言うだろうが、さして目もくれず、真っ直ぐ街の外へとつながる大通りを行く。 三年前、気まぐれに立ち寄った街の道を、再び同じ足で歩く。
仕える主人をなくし、あてもなく一人ブラブラとしていた。
また、あてのない旅に出る。
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