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渡されたノートを凝視し、意を決して1ページ目を開きます。
私はきっと、このページを捲ったときのことを生涯忘れないでしょう。
「っ……!っ……!っ…………!!」
緩みそうになる口を何とか引き締め、叫びたくなる気持ちを押し殺し身体を震わせる。顔に血が集まり火照る。
突っ伏したい。ごろんごろんしたい。そんなことをすればお会いすることができないどころか頼みの綱交換ノートすら気を遣ったアレンさんに取り上げられてしまうでしょう。なんとか衝動をうちがわに押し込めます。
私は生まれて初めて、これほどまでに激しい萌えを感じました。
軽い文章を書きなれていないのでしょう、硬いのを無理やり崩そうとした少し不自然な文章。
文字はかっちりとしていて真面目さがよく見えます。
内容もまた、最低限の威厳を保ちつつ恐る恐るこちらの様子を伺うようなもの。
怖がらせてすまない。敵意や害意はない。獣人だからと言って野蛮なものだと勘違いしないでほしい。
「……っふ、」
ガオラン様はいったいどんな顔でこんなかわいらしいことを書いたのでしょうか?
あの大きな身体ではこの大きくはないノートに文字を書くのも気を遣うでしょう。
あのふかふかお手てで私のために文字を綴って、距離を縮めようとしてくださっている。
落ち着かせるように、静かに息を吐く。
これほどまでうれしいことが他にございましょうか?
「……アレンさん、ありがとうございます。すぐに返事をお書きいたします。」
ガオラン様の書いた隣のページにペン先を滑らせます。
アレンさんでさえモフモフしたくて内心身もだえします。なのでガオラン様にお会いしたらまた興奮のあまりに気絶してしまうかもしれません。そのため交換ノートから始めるのも良いかもしれない。そう思いました。
しかし私は交換ノートを、いえあの大きな方が真剣に私のために文字を綴ってくださることを侮っておりました。
これなら鼻血を噴出したり、気絶をしたり、醜態を晒さずにすみます。
しかし交換ノートを書くたび、読むたびに想いは膨れ、積もるのです。
実際にお会いしたい、その思いが熟れたころ。
私は最後まで書き終わったノートを手に、ガオラン様の私室の前に立っていたのです。
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