箱入り娘(物理)と狼王 【前】

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アルドラがにやにやする原因は扉の外にある。 声がするわけではないが、扉の向こう側で一人ずっととどまっている気配がある。おそらくアランに言われたのだろう、扉の外ではリーファがずっと部屋に入ろうか入らまいかと逡巡している。あの気配が扉の側に現れてからもうずいぶん経つが、扉が開けられることもましてノックされることもない。そのおかげで私はアルドラと話している間もずっと意識がそちらへ向いていて悉く生返事となってしまっている。話に集中しようとも、耳は勝手に彼女のいる方へと傾けられてしまう。 「……陛下がお開けになられないなら私が代わりに、」 「待てっ!」 「冗談ですよ。私が居ては邪魔でしょう。御武運を願っていますよ。」 クスクスと笑いながらアルドラは扉へと踵を返した。上機嫌に揺れる尻尾を恨みがましく睨む。しかしアルドラが扉を開けた一瞬、彼女の金糸雀色の見えて苛立ちが霧散し、代わりに再び言葉にしがたい思いが去来する。 アルドラが去った後も沈黙を保ったままの扉。どうすることもせずやきもきしていたが、どうせ今日会わないという選択肢はアランがいる以上私たちに残されていないのだ。咳ばらいをして身だしなみを整え、意を決し扉のノブに手を掛けた。 「リーファ、か。」 扉を引けば、中途半端に手を上げたリーファが目をまん丸にしてこちらを見上げていた。
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