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最初こそ、みっともないと鼻で笑い破り捨てるつもりだった。
だがそれに待ったをかけたのは宰相アルドラだった。
「陛下、カルカナ王国の嘆願書、検討してはどうでしょうか。」
「……なぜだ。人間の小国が一つ消えようとこの国に何の影響もない。」
虎族であるアルドラは冷徹に見えてその実好戦的だ。人間に対し侮蔑の念を持っていることも知っている。だのになぜ人間を助けるようなことをわざわざ言い出すのだろうか。
「影響は確かにありません。しかしカルカナ王国と国交を望んだ場合、ある程度の利益は見込めます。」
「言ってみろ。」
「カルカナ王国は小さく土地も豊かではありません。しかしそれゆえに一部の技術に特化しております。カルカナ王国の特産の一つに布があります。大陸の中でもその布の質は指折り、また織物での評判も良いようです。」
大きくため息を吐いた。そこまで聞いて、なぜこの宰相がわざわざ進言したのかを理解する。
「……細君に何か言われたのか。」
「……恥ずかしながら。」
ついー、と気まずげに目を逸らすこの虎には姉さん女房がいる。
栗鼠族だ。
栗鼠族のアレンという細君にこの虎は尻に敷かれている。
最初聞いたときは虎が栗鼠の尻に敷かれるなど、と笑い飛ばしたものだが、否定しようのない事実だった。なかなかシュールだがうまくいっているらしい。
細君は王城のメイド長をしているため仕事上の面識もある。
とても、押しが、強い。
雇い主であり一国の王である私にさえも押しが強い。丁寧であり敬われているのだが、それはそれ、これはこれ、と言った風だ。
「それと、」
「なんだ。」
「……量は少ないそうですが、おいしい栗がとれるそうです。」
たった一人、栗鼠の一存でとある人間の小国の明暗が分けられるというのだから、まったくおかしい。
小国カルカナ王国を庇護することなどギルヴァーン王国からすれば造作もないことだ。リスクはほぼないに等しい。
しかし何かしら条件を付けなくてはギルヴァーンの立ち位置は揺らぐだろう。
そこでカルカナ王国の皇女を迎え入れることを提案したのはアルドラだった。
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