箱入り娘(物理)の受取人

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形としては嫁入りだが事実上はただの人質。 あえて嫁入りとさせたのはアルドラのいらん世話だった。 現在私は28歳。正室も側室もいない。 これでは困ることくらいはわかっているが、なかなかその気にはなれない。女を見繕う暇があるなら軍の強化や国民生活の視察でもしたい。 その年で国母となる嫁を娶る気配がないのは何事か、と前々からアルドラにねちねちと苦言を呈されてきた。放置してきたが奴にとっては渡りに船だろう。 最初こそふざけるなと却下したがよく口の回るアルドラに論で勝てるわけもなく、あっさりと人間の嫁入りが決まってしまった。 いずれ適当な者を娶らねばならないとわかっていたが先延ばしにし続けてもう28歳。 しかも話が片付いてから聞いてみればカルカナの皇女はまだ18だという。 思わず犯罪の二文字が頭をよぎる。 決して自分の意思ではないが、28の男が18の人間の娘を寄こせなど、まるで私がとんでもない好色のようではないか。 そもそも私が独り身であるのにも一つ理由がある。 私は狼族でいわゆる肉食系だ。尚且つその中でも力が強い。そのためか、とにかく周りに委縮される。特に草食系たちは近寄っただけで震えだし冷や汗を流す。一瞬でも目が合おうものなら非のあるなしに関わらず五体投地し命乞いをする。それはもう体質的に仕方がないこと。耐えられる草食系と言えばアルドラの細君くらいだ。 私の見た目は仲間から見ても恐ろしい。 ぎらつく金の目、大きな口に鋭い歯、黒々とした爪。威厳があると言えば聞こえはいいが、怯えられるのは日常茶飯事だ。 しかし私は訴えたい。 怯えられるのも命乞いされるのも決して慣れない。いつもされるから気にしないとか、無理。顔にこそ出さないようにするが、凄まじくへこむ。部屋に引きこもっていたくなるくらいには。 仕方ないと思いつつも、何もそこまで怯えなくても……、と心の中で呟くのはもはやルーティンワークと言っても過言ではない。怯えるなと言ってもそんなのはどだい無理な話。 同じ獣人でさえその在り様なのだ。臆病で脆弱な人間では、おそらくより一層だろう。 顔を見た途端泣き叫ぶかもしれない。いや、さすがに皇女なのだからそれくらい表に出さない肝くらいあるかもしれない。
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