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箱入り娘(物理)の受取人
私の私室はお世辞にも華やかと言えず無骨一辺倒だ。どこもかしこも飾り気はなく、特にこだわりもない。強いて言うならば壊れにくく丈夫だという点だ。
そんな味気ない部屋の机の上で一際異彩を放っているのは愛らしく、しかし品がありロイヤリティを感じさせる一冊のノートだった。
ギルヴァーン王国第7代皇帝たるガオラン・ギルヴァーンはその一冊のノートと相対していた。
「…………、」
私は一体何をしているのか、思わず気が遠くなった。
そもそもの発端はこの大陸に侵攻せんとする魔族にあった。
ギルヴァーン王国兵は数度、片手で数えられるほどだが魔族の尖兵と交戦した。手応えとしては、恐るるに足らずというところだった。
獣人は身体能力が高く好戦的だ。これに関しては自他ともに認められる。こちらとしては来るならば来い、食い殺してくれる、位の心持ちでいた。
もちろん、獣人の全てがすべて好戦的なわけではない。主食が野菜である草食達は身体能力こそ高いがあまり戦いを好まない。逆に私を含めた肉食系はかなり好戦的だ。いざ戦いとなれば地の利があるため非戦闘員は雪山のどこにでも隠しておけるし、私たちは堂々と魔族とやりあうことができる。
そのため、私は特に魔族の侵攻に関して危機感を抱いていなかった。
しかし人間たちは違ったらしい。
脆弱な身体をもつ人間たちは魔族たちの侵攻に戦々恐々としているようだった。
当然だとも思う。人間に手を出したことはないが、彼らは鋭い爪もなければかみちぎる牙もない。その上身体を守るための毛皮もないときた。
獣人は、人間から差別を受けている。それは事実として知っていた。
だが獣人は脆い身体を持つ欠陥だらけの人間を見下していることも否定できない。
私たちを蛮族と謗る人間。
人間を脆弱と嗤う私たち。
友好を結ぶなど夢のまた夢だ。
外交を結ばずとも特に困ったこともない、そして困ることはこれからもない。そう思っていた。
その状況を変えたのが魔族の侵攻。そしてもし襲撃された場合まともな抵抗もできず潰されてしまう人間の小国、カルカナ王国からの協力願いだった。
なぜ野蛮と謗る我が国にまで、と思ったがどうやらギルヴァーン王国に頼むというより見境なく周辺国に書状を出しているようだった。相当切羽詰まっているように見える。
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