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「あっ!」
そう言った時には時すでに遅し。手に持っていたアクセサリーケースが宙を舞う。
ごきげんよう。私はとある小国の我が儘な姫に仕えるしがないメイドです。
状況を説明します。
何故だか機嫌のよろしくない姫様は気分転換におしゃれをする、などと言い出し、下っ端メイドの私にアクセサリーを衣装ケースから持ってくるよう言いつけた。
正直、今日城から出る予定がないのなら着替えようとするなよ、と言いたいが私はしがないメイド。面倒などと言って首を撥ねられるのはごめんだ。
そうして城のなかをアクセサリーケースを持って歩いていた。
しかしぼうっとしていたからか、窓から見える空が綺麗だったからか、私は杜撰な石造りの廊下の段差に足をとられたのだ。
キラキラと舞うアクセサリー。
頭で考えるまもなく、つけていた白いエプロンで宙を舞うアクセサリーたちを、魚を漁る職人さながらに回収したのだ。生まれてこのかた、こんなに早く動いたのは初めてな気がする。
何が言いたいかと言うと、私は頑張った。最善の対応をした。
努力むなしく、エプロンが届かなかったものが一つ。
ティアラだ。
教養もない私にすら、高価なものだと人目でわかる。悪趣味なほどにつけられた宝石、キラキラと輝くプラチナ。
その悪趣味ティアラは窓の外へと羽ばたいた。
「ああああああああっ!!!」
私の絶望など知らず、ティアラは外階段をバウンドしながら徐々に下へと落ちていく。
「あああああっ………!」
「ミーシャ?どうしたの?」
後ろからかけられる声。失態がバレたと絶望しながら振り向く。
「あ、アンちゃん!」
「え?」
振り向けば同期のメイド、大天使アンジェリーナちゃん。神はまだ私を見捨てていなかった。
「アンちゃん!ほんっとうに申し訳ないんだけど、このアクセサリーたちを姫様のところに持って行ってもらっても良い!?」
「え、別にいいけど、ミーシャは?」
「私はちょっとやらなきゃいけない使命があるの!ごめんね!帰ったら詳しく話すから!」
一方的に言ってごめん、アンちゃん。でも私は凄まじい勢いで転がっていくティアラを見失うわけにはいかないの。
はしたないとかそういうことは気にせず、ティアラを追って窓から外階段へ飛び降り、その後ろ姿を追った。
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