8人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
壁に叩きつけられて解ける魔法とはなんぞや。ご都合主義もいいところだ。もしかしたらあの蛙の態度はわざと姫を怒らせるためだったのかもしれない。なんにせよ優しさとは対極にある解決方法だ。
魔法がどういうものなのか分からないが、解けたのならきっとそういうものなのだろう。
「私と姫は婚姻することになりました。しかし一つ問題があるのです。」
「昨日の今日、壁に叩きつけられたのに結婚決めた王子すごい。」
「きっと上の方々の思惑がいろいろあるのよ。」
すでに決定されたような姫と王子の婚約。皮肉一色であったがお似合いであるのだ。まあ丁度いいのだろう。
どうであれ、一使用人である私たちには些事である。姫が嫁ぐために国を出るならば、一緒についていくメイドが選ばれるのだろうが、私は生憎彼女のお気に入りでもなければ有能な使用人でもない。よって私には全く関係ないのだ。
姫の輿入れが決まれば仕事は山の様にあるだろう。さっさと広間から出て仕事に取り掛かってしまいたい。
「悪い魔法使いはきっと、私が元の姿に戻ったと知ったら再び私に魔法を掛けようとするでしょう。そして姫にも危険が及ぶ可能性がある。……皆様には魔法使いの捕縛を手伝ってもらいたいのです。」
ざわめきが大きくなる。当然だ。私たちは魔法使いの捕縛など本来の仕事でもなければ魔法使いの存在さえ絵空事だと思っていたのだ。
「そんなことできるわけないでしょ……っていうか魔法使いを追いかけたりなんかしたら私たちまで蛙にされちゃうかもしれないじゃない。」
「それね。勝手にやっててくれればいいのに。あの王子が蛙だろうと人間だろうと私たちには関係ないもんね。」
王子と姫が蛙にされようがされまいがどうでも良い。強いて言うなら魔法使いがいるかもしれないという場所に寄りつかないことだ。
他人事のようにアンジェリーナと囁きあいながらこのありがたいお話が終わるのを待っていた。
「魔法使いというと恐ろしく思うかもしれない。だが今その魔法使いもまた、魔法にかかり山椒魚の姿をしているんです。」
再びざわつく広間。しかし私はそれどころではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!