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「昨晩、姫の客人である蛙が、人間になりました。蛙は隣の国のルルヒ王国の王子だったそうです。」
「……やはり、フロッシュ・フェアディーンストだったか。」
「知り合いで。……フロッシュさんは先日悪い魔法使いにより蛙に変えられたそうです。それで森を彷徨っているときに姫に会い、城に来ました。」
掻い摘んだざっくりとした話だが、おそらく当事者たる彼にはそれで十分だろう。自身の記憶で十二分に補てんできる。いつかのように、眉間らしき部分にキュ、と皺を寄せて唸るように言う。
「なぜ、呪いが解けた。」
「私は魔法とか呪いとかよくわからないので、確かには言えません。」
「聞かせろ。」
「王子いわく、姫のやさしさだそうです。ただ蛙が王子に戻るところをたまたま目撃した友人いわく、優しさもクソもなく、我慢の限界になった姫様が蛙を壁に叩きつけたそうです。その途端、蛙が王子になった、とのことです。」
「叩っ……!それで元に戻るのか!?」
「わかりません。ただ戻ったのならそれが答えなのでしょう。」
信じられない、という風に目を見開く。
可愛い、いや可愛くないという場違いな感情のせめぎあいは鉄面皮の下にしまい込む。詐欺だ。両生類詐欺だ。
「……ひとまずわかった。だがなぜそれで私が追い掛け回されることになった?」
「それは貴方が王子を蛙に変えたからでしょう。それで二度と変えられまいと躍起になってるんです。」
「……はあ?」
心底わからない、怪訝さを何時間も鍋で煮詰めて凝縮したような顔で間抜けな声を上げた。少し驚く。彼のことだからせせら笑うとか、自分が王子を蛙に変えたことをわざとらしく鼻にかけるかと思ったのだが、彼はひたすら困惑しているように見えた。
「違うんですか?悪い魔法使いさん。」
「はあああ!?何で私が魔法使いなんだ!私だって被害者だぞ!それに私たちを爬虫類に変えたのは魔女だ!なにより私があいつに呪いをかけたなら何で魔法使いの私までこんな両生類になってると言うんだ!」
怒髪天を突く勢いで憤慨するオオサンショウウオ(仮)さんはびたんびたんと太い尻尾を地面に叩きつける。思ったより音が出て、慌ててその苛立たし気な尻尾を掴み地面に抑えつけると一瞬で静かになった。急所であったらしい。
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