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蝮草の実のような赤い複眼をグリグリと動かし、細い前足を神経質そうに擦り合わせる。『それ』が現れると、街中に設置されたメガホンから警報が鳴り響き避難を促される。かつてはその警報を無視し、屋外に留まった人間もいたが今では警報が鳴るとともに街の中からは一切の生き物の気配が消える。道を歩いていたものは建物の中へ逃げ込み、自動車はすべて地下通路へ誘導される。人間はみな息を潜めて『それ』が駆逐されるのをただひたすらに待つ。ほぼ無音の世界に『それ』の巨大な羽音だけが異様に響いていた。
警報が鳴った時、私たちは動き出す。『それ』らを捕えるために。
「……今回は何匹、現れましたか?」
「四匹だ。三日ぶりではあるが、まあ悪くない数だろう。」
足早に歩く父の背中を追い街へと向かう。その途中で叔父や従弟と合流し、現れた『それ』のもとへ向かう。
「ぼく今日来てる奴らは大きめだって人が話してるの聞いたよ!」
「ハッ、期待しない方が良い。人間から見りゃ一メートル程度の奴らだって馬鹿でかいって大騒ぎすんだ。」
そうせせら笑う叔父を父は目で窘めると叔父は軽く肩を竦めた。
街に出る。上を見上げると黒い塊が空に飛んでいた。羽音は父の言った通り四つ。
「必ず捕えろ。逃すな。」
「はい!」
父の言葉を皮切りに、僕らは『それ』に向かって一直線に『飛んだ』。
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