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手筈通り、僕らは『それ』を捕えた。一人一つずつステンレス製の大きな籠に『それ』は詰められている。決して出ることはできないにも関わらず籠の中でバタバタと羽を動かす『それ』に吐き気がした。私が持っているのは一・五メートルほどの大きさの『それ』。叔父の揶揄した通り、『馬鹿でかい』とは言えない。せいぜい平均よりもわずかに大きい程度だ。
「火樂ひがくさん、いつもありがとうございます!」
「いえ、当然のことですから。」
上空にいた『それ』が捕えられるとすぐに街中にその旨が放送され、ぞくぞくと人間は外へと戻り各々の生活を再び始める。そして多くの人間が私たちに賞賛を送る。その人間たちに当たり障りのない返事をしつつ、一刻も早く根城へ帰りたいと願った。こうして浴びせられる賛辞と感謝の言葉がひどく癇に障る。もちろんそれを口に出すことはないし、顔に出すこともない。ただ穏やかそうな微笑みに見せるため目を細めて見せた。
「私たちは火樂さんたちの様に、黒王蠅こくおうようを生け捕りにすることなどできませんから。私たちでは奴らの有害な体液をまき散らさないように処理することは難しいですし。」
せめてあなた達のような翅があれば、などと言ってみせる人間に私は曖昧な笑みを返した。
人間たちの間をすり抜け、私たちは籠を持ったまま誰にも知られることのない根城へと足を向けた。
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