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籠を開ける前に、隙間から手を突っ込み抵抗できないように背中の羽と六つの足をもぐ。だがもいでもなお微かに身じろぐ。その姿にまた、吐き気がした。顔を顰めながら私の二の腕と同じくらいの太さのある足に喰らいついた。バリッと軽い音を立てて小さくちぎれた。半透明で粘り気のある体液が口元から顎を伝った。 数百年前、それはアフリカのジャングルで発生した。いや、発生したというより人間の目の届かない場所で確かな進化を遂げ、そして姿をそこで姿を現したというのが正しいだろう。アフリカの地元民がジャングルの中でサルの死骸らしきものを発見した。らしきもの、というのは何かによって喰い散らかされておりもはやほとんど原型を留めていなかったからだ。それ自体は別段変わったことではない。弱肉強食の世界、そのようなことはざらだ。だが妙なことに、周りには動物の足跡らしきものは見られなかった。だが次に見つかったのは人間の死骸だった。装飾品から、村にいた若者の一人であることが判明した。同じように喰い散らかされ柔らかい眼球や内臓のほとんどが残っていなかった。地元民はその死骸を村へ持ち帰り、埋葬した。しかしそれで終わりではなかった。次に襲われたのはジャングルに入った三人組のトルコ人観光客。日が暮れてもジャングルの中から帰ってこないことを不審に思った地元民は、夜が明けてから三人組を捜索した。すると奥の沼地の近くで三人ともそろって発見された。ただそのうち二人は既に残骸と化していた。サルや以前被害にあった地元民と同じような姿だった。ただ一人だけが生き残った。その一人に話を聞いたが錯乱状態でまともな会話にはならなかった。彼の言葉の端々から、被害者を襲ったものの姿がわずかに見えてきた。それは真っ黒い身体で六本の足をを持ち、空を喧しい音を立てて飛び回り、人間の肉を喰いちぎる。何より特筆すべきはその身体の大きさであった。それは明らかに一メートルを超える姿である、と。もちろん誰一人として彼の言葉を信用しなかった。そんな巨大な身体で空を飛行する昆虫のようなものがいるはずがない。可能性としては肉食の昆虫の集団に襲われた、もしくは鳥に襲われたのでは、という推測で片づけられ、生き残った男は哀れみの視線を受けつつトルコへと返された。
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