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黒々とした身体にショウジョウバエそっくりな赤い複眼をもつ肉食の蠅。未解明な点も多いが、その姿かたちから蠅の進化したものであるというものが通説となっている。少なくとも遠くから見た姿は普通の蠅と変わらない。
脅威になり始めたころから、どこの国も国民が個人個人で自衛することは不可能だと判断し、対策組織が作られ国ごとさまざまな方法で黒王蠅を駆逐しようとした。だがどの方法も何らかの形で人間が被害を受けてしまう結果だった。黒王蠅は神出鬼没だ。山だろうと森だろうと街だろうとどこにでも現れる。いや、生き物がいるところであれば、どこにでも。
しかも奴らの体液は生き物にとって有害である。そのため街中に現れた場合、殺すことができない。銃殺すれば地上にその体液が降り注ぎ、毒ガスで殺しても遺骸が落下すれば内容物が飛び散る。ならば生け捕りにして場所を変えてから氷漬けにしたり焼殺すれば良い、という案が出たが、それは不可能だった。人間にはそれを捕獲することがほとんどできない。蠅はもともと昆虫の中でも非常に飛翔能力が高い。空間に固定されたようなホバリングや、高速での急激な方向転換など複雑で敏捷な飛翔をこなせる。それは身体が通常の数十倍になっても変わらなかった。
人間は頭を抱えたが、良い方法は見つからず、結局、見つけ次第その場で処分するという形しか取れなかった。
だがある日、南アメリカで奇妙な人間が現れた。彼らは背中に透明な翅をもっていた。彼らはその背中の羽で空を飛ぶことができた。その速度は驚くべきことに人間がかなわないとしてきた黒王蠅を凌駕するものだった。そして彼らはいとも容易く黒王蠅を捕獲して見せた。一滴の体液をまくこともなく、無傷で。もちろん最初は、彼らは非常に差別された。背中に生える翅や鋭い歯は人間からすれば非常に異質であり、その翅はどこかの昆虫の翅を彷彿とさせる見た目であったからだ。
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