第1章

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00  日本海は濁っている。と言った偏見、先入観の所以は、今は昔の演歌などで日本海の荒々しい描写が枕詞宜しく一緒にされていた事や、太平洋側と比べると晴天が少ない、また、向こう側に大陸が控えているなどの閉塞感を原因としているのかも知れない。とは言え、所詮は海、綺麗な所は綺麗だと思う。最近は少しばかり波が高い日が多かったものの、漸く晴れた今日は夏休みに向けて海の家を建てる目途が立った都合、僕達は未だ解放されていない海辺へと着ていた。  大学の受験に失敗し、浪人生となった僕こと……和泉博隆は、勉強を続けるモチベーションも減り、また祖父母がオーナーとして経営する海の家の手伝いをする為、気分転換も兼ねた小旅行でひと夏の体験を楽しもうとしていた。勿論、勉強を疎かにするつもりはないものの、一か月くらいは息抜きをしても罰は当たらないだろう。が、バイトを塾の費用に充てようと考えている状況で、そんな余裕があるかどうかは分からなかった。  「じゃぁ、今日は家の骨組みを作りますから」  祖父母がオーナーとは言え、実質的な営業と経営は地元で庶民的なフレンチ料理を出すレストランの店長でもある坂崎洋二に一任されている。ネットでは海の家らしからぬ料理も出すと噂にもなっているそうだ。見た目は浅黒く、髪もやや茶色。一見すると、サーファーだが、れっきとした元フランス料理のシェフである。  「アルバイトの人は分からなかった事があれば経験者でもある先輩方に聞いてください。ちょっと今週は天候が優れなかったので進捗は遅れ気味ですが、急いで作業して、怪我をしたら元も子もありませんから、兎に角、安全第一でお願いします」  流石に曲がりなりにも家を建てる以上、三人ほどの大工が参加していた。支柱を立て、梁を通す、床板、壁と続き、屋根を張る。内装を整え、家具を揃え、装飾を施し、水を引く。冷蔵庫、シャワー、トイレと水回りを確認しつつ、水漏れがない事も入念にチェックする。ガスボンベを置き、火を灯し、火力と相談しながら今年の夏に出す料理の出来を確かめると、一通りの作業は終わった感じだろうか。結局、作業期間中は終日晴天の日が続いたものの、結局、完成まで一週間ほど要してしまった。  「少し遅れてしまいましたが、海開きは来週の火曜日、夏休みは再来週です。皆さん、今年もよろしくお願いします」
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