第1章

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01  頭が痛い。人はこれを二日酔いと言うのだろうか。疲労感と片頭痛。軋む身体は、運動過多の末に小さな炎症を起こしている――ような感覚だ。兎に角、初めての経験に対処も分らないまま、ベッドから足を放り投げた僕は、ふと違和感を覚え、その正体に戸惑った。  裸だ。しかも見た事もない部屋にいる。シンプルながら明らかに女性的な装いも見付けられ、僕は、まさか、の一言を呟きそうになった。漫画か。とひとりツッコミながら、背後に感じた気配に一瞥した僕は、取り敢えず相手が男ではない事にホッとした。  確か……と昨晩の事を思い出そうとするも、何やらアルコールで記憶が飛んでいる。相手が誰であったのかを理解するのと同時に、初体験が無自覚だった事に後悔した。ただ、前後が思い出せない。何時、どのタイミングでお酒を飲んだのかさえ分からなかった。  脱ぎ捨てたパンツを履き、少しだけ汗臭いシャツを着ると、小ぢんまりとしたキッチンに置かれたコップに注いだ。顔も洗いたい衝動にも駆られたが、何となく他人のタオルなどを勝手に使う事は躊躇われ、何杯かの水を呷り、口の中を漱いだ。  いたたまれない心持ちのまま、起きてこない相手を覗いた。まだ寝ている。誂えられた小さな机の脇に正座し、取り敢えず相手が起きるまで僕は待つ事にした。相手……今は彼女と言う代名詞を使って置こう。昨晩の飲み会で遇った事は覚えているものの、記憶違いの可能性もあるからだ。  手持無沙汰とは言え、他人の家を物色するほど邪な気持ちも度胸もない。ただ落ち着かずに視線を回らせるのが精一杯の僕は、少しばかりの罪悪感を覚えつつも、彼女の部屋を観察した。  如何にも一人暮らしの大学生らしい小奇麗、且つ洗練された女子の部屋には、何枚かの絵画が飾られている。薄っぺらいコピーながら大事そうに額縁に収められている物もあれば、画鋲で止められているものも見付けられた。画風やデザインは多様で、素人目にも複数の画家やイラストレーターを違えている事が分る。ただそのモチーフは共通していた。人魚である。  「そ、人魚」  項を舐めるような声音にゾッとした。  「おはよ」  振り返った僕の目の前には半裸の女性の笑顔があった。  「……てか、他人行儀に畏まらないの。昨日はあんなんだったのに」
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