第二章 未来のゆくえ

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 今度はキャベツがうろたえる番だった。ジャガイモ流剣技は一族間のみでの伝承、他者が一朝一夕で真似できるものではない。この侵入者はやはりジャガイモの縁者か、でなければ――わずかな疑念がわずかな隙を生み、徐々に劣勢に傾いていくキャベツ。押し返すだけの気勢が持てず、とうとう壁際へと追いつめられた、その時。 「キャベツ!! 聞こえるか!! キャベツ!!」 「ジャガイモ!」 「罠だ、そいつは――敵だ!!」  ジャガイモの声は廊下から聞こえた。目の前にいる侵入者はキャベツの知るイモとは別個体なのだ。疑念が晴れた刹那、キャベツは一気に攻勢へと転じる。相手も一流といえ、無二の友にはあと一歩及ばない。冷静さを取り戻したキャベツが再び押し返すのはわけもない話だった。そして。 「はあっ!!」  充分に気勢の乗った一太刀が侵入者を捉えその剣を宙へと弾く。 「ああッ!」  あまりの衝撃に侵入者も体ごと後方へ吹き飛び、ベッドの側面に打ち付られると、やがて膝をついた。キャベツの勝利だ。  キャベツは侵入者にそれ以上の抵抗の意思がないことを悟ると、まず部屋に明かりを入れた。想像通り、漆黒の布で体を覆い隠した侵入者が転がっている。 「キャベツ、無事か……!」 「ジャガイモ!」  部屋の明かりで戦いの終わりをけどったか、扉の向こうからジャガイモが転がり込んできた。比喩ではない。ジャガイモは両手を後ろ手に縛られ、文字通り転がってきたのだ。これも侵入者の仕業に違いなかった。 「ジャガイモ、何があったんだ」  慌ててジャガイモの縄をほどくキャベツ。解放されたジャガイモは、憎々しげに侵入者を見下ろした。ジャガイモの態度には侵入者への並々ならぬ敵意があらわれていた。一体、何があったというのか。 「こちらも寝込みを襲われたのだ。油断したよ。最初から部屋の中に身を隠していやがった。とんでもない宿を用意してくれたもんだ」  やはり罠――今さらながらジャガイモの忠告が胸を衝く。が、過ぎたことは仕方がない。 「こいつは何者なんだ? 太刀筋はジャガイモ流そのものだった」  キャベツは敵の正体がつかめない。しかしジャガイモには心当たりがあるようだ。 「それは――そうだろうさ」  さも当然、というように吐き捨て、ジャガイモは侵入者に近付く。と、その身を覆っていた黒い布を力任せにはぎ取った。
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