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「ま、まさか!!」
日に当たれば、毒を。それ自体はキャベツも聞いたことがあった。そうして毒を作り出したジャガイモは、皮を剥いだ身の色が――そこまで思い出し、キャベツはジャガイモの欠けた半身を注視した。
ナーガ・ネギが抉った身の断面は淡い黄色ではなく、もはや中心に近い部分まで緑色へと変わっていた。かなり多量のソラニン、つまりは毒が生成された証だ。
「まさか、君はこのために――!!」
あの時、砂漠でジャガイモが日よけを頑なに拒んだのは、窮地に陥ったときに自らを犠牲にするためだった。
「オレに……構うな! お前ならやれる、その剣で、奴をッ……!!」
キャベツは覚悟を決めて頷くと、抱えたままだった天地の剣を持ち直した。まるで手に吸い付くような、自分のために用意されたかのような、不思議な感覚。剣が体の一部と感じられるほどの一体感。
自然と力がみなぎり、地を駆ける勢いのままにキャベツは跳んだ。誰よりも高い場所へと。体は綿毛のように軽く、妨げるものは何もなかった。暗雲が払われ、陽光がキャベツと剣とをまばゆく照らす。
「うおおおおお!!」
天空の高みから、はるか大地へと。
裂帛の気合い。迸る雷光の如き縦一文字の剣閃が、ナーガ・ネギの巨体を見事に両断した。
重い響きと共に、ナーガ・ネギは二つに分かたれた体を地に横たえ、ぴくりとも動かない。
「ひ、ひいい……」
頼みの綱の魔物がもはや戦えぬとさとり、早々に尻尾を巻いて逃げだすアオナス。キャベツは小物に目もくれず、ジャガイモのもとに急ぐ。ジャガイモもまた大地に体をあずけ、辛うじて意識を保っている状態だ。
「ジャガイモ!!」
「……やったな、勇者キャベツ」
息も絶え絶えに身を起こすジャガイモ。体に力はなく、キャベツに語りかけるためだけに、気力を振り絞っていた。
「その剣は……根のみのオレたちには使えぬ……根で地の恵みを受けて育まれ、葉で天の光を受けて成る……キミの……うう……」
「喋るなジャガイモ、今からでも命を長らえるくらいは――!」
「これも、運命……だが気を落とさないでくれたまえ……この残った半身を植えれば……いずれ芽が出て花が咲き、新たなイモとして、また……」
徐々にジャガイモの息遣いが細くなってゆく。もはや手遅れとわかっても、キャベツは懸命に友の名を呼び続けた。
「ジャガイモ、ジャガイモ!!」
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