第三章 夢のあとさき

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「――フッ、救国の勇者が、泣くもんじゃないぜ……」  キャベツに伸ばされかかった手が、半ばで垂れる。 「オレも一度は……お日様の下で……生きてみたかった……!」  そのまま静かに、目を閉じるジャガイモ。 「ジャガイモ……!」  キャベツがいくら体を揺すっても、ジャガイモは目を覚まさない。  最期のとき、だった。 「ジャガイモオオオォォォォ!!」  青空に燦然と輝く太陽が、ジャガイモの横顔を優しく照らしていた。  キャベツは自分のまとっていたマントを外し、ジャガイモの半身を包んだ。ジャガイモの憧れを切り取った、蒼穹のマント。キャベツはそれを丁寧に道具袋にしまうと、ピーマンの城に向けて全力で走り出した。  悲しいのは当然だ。友を失い、悲しみを覚えぬことがあろうか。しかしジャガイモは入念な準備をし、自らの意思で運命に殉じた。  仇として討つべきはピーマンか、いやそれも違う。ピーマンが反旗を翻したのは王国ではない、現実だ。  キャベツの心をやり場のない怒りと、やるせなさとが埋めた。食われる者のための世界と、食われるだけの運命。誰も彼も、この二つの現実に弄ばれただけではないか。  そんな世界で、なぜ生き、なぜ死ぬ。  命の意味とは――野菜の本懐とは、どこにあるのだ!  迷いを振り切るように走るキャベツ。分厚い門扉を斬り裂いてピーマンの魔城へと乗り込む。パプリカ兵の軍勢が行く手を阻まんと立ち塞がるが、伝説のつるぎを振るうキャベツの敵ではなかった。 「どけえっ!!」  高速の剣のひと薙ぎで、数体のパプリカが吹き飛ぶ。桁外れの実力差に多くのパプリカが逃げ惑い、なおも戦いを挑んだ者はたちどころに打ち倒されていった。  キャベツの進行を妨げるに値するものは最早いなかった。キャベツは残ったパプリカの一体を捉まえて王の間の位置を聞き出し、速度を緩めず階段を駆け上がった。ほどなく現れた扉を力任せにはね開ける。 「よくぞここまで来た、勇者キャベツ」 「貴様が、魔王ピーマン!!」  王の間に踏み込んだキャベツを、二つの玉座が出迎えた。片方に座するのは無論、城の主たるピーマンだ。そしてもう片方の玉座には、意外な野菜の姿があった。 「キャーロット姫!」
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