第三章 夢のあとさき

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 美しい朱の体に純白のドレスをまとい、瞳の奥に深い優しさと気品をたたえる――ピーマンに囚われの身となったはずの、キャーロット姫であった。むごい仕打ちを受けてはいないかと心配だったが、見る限りでは顔つきや着衣に目立った乱れはなかった。 「……私はこの戦いの行く末を見届けるだけの者。手出しは致しません」  姫はまさか、自らの意思でこの場に立ち会うというのか――キャベツが考えるより先に、ピーマンが動いた。 「くっく。勇者気取りの若造が。手討ちにしてくれる」  得物を抜き、玉座から腰を上げるピーマン。黒い剣の切先が鈍い光を放つ。キャベツも天地の剣を構え直し、体勢を整えた。 「ゆくぞ、魔王!」 「応!!」  キャベツは気勢を保ったまま、一気に間合いを詰める。パプリカを一刀のもとに打ちのめした横薙ぎの剣は、しかしピーマンを捉えるまでには至らない。ピーマンは黒き剣でキャベツの一撃を受け止めると、すぐさま反撃に転じた。繰り出される鋭い突きに身を翻すキャベツ。紙一重、まさに紙一重のタイミングで、刃がキャベツの葉の一枚を掠めた。  ――強い!  流石に魔王を自称するだけのことはある。これまでキャベツが戦ってきた中でも、一、二を争う腕だった。一方の攻撃をもう一方がうけ、かわし、反撃に転じたところをまた、と、閃く刃に剣戟は止まず、玉座の間には硬く澄んだ音が幾度となく響いた。 「勇者よ、なぜ我に楯突く? この世界の歪み、よもや知らぬとは言わせんぞ」  互いに剣を打ち続け、何度目かの鍔迫り合いの折であった。ピーマンが、キャベツに問うた。 「勿論知っている。だが魔王、お前のやり方では、何も変わっていないだろう!」  互いに息が上がっている。動揺を見せた方が負けるのだ。ピーマンの揺さぶりに、キャベツももう一度気力を奮わせる。 「クッ。早計だな。国を揺るがせば、いつかどこかでまた、運命に抗う誰かが現れるだろう。我の手でなくとも、後世の者の手でこの狂った世界を変えられればよいのだ!」 「なめるなあッ!」  キャベツは大きく吼えると、一旦距離を離した。魔王のペースに呑まれてはいけない。それに、旅の中でキャベツにも思うところは多くあったのだ。 「ピーマン! お前には、お前の計画には中身がない!!」  キャベツは肩で息しながら、それでも魔王を喝破する。
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