第三章 夢のあとさき

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「くっ、剣が、開闢をもたらした伝説のつるぎが、真の勇者を選んだというのか……!!」  輝くつるぎを手に、魔王と対峙するキャベツ。ピーマンは自分の剣を足元に置いた。ついに勇者としての胆力を備えたキャベツに、抵抗は無駄と踏んだらしかった。。 「そうか……勇者キャベツ。どれだけ葉が傷もうとも、貴様には堅い芯があるのだな」 「ピーマン」  激しい戦いでキャベツの外側の葉はすでにボロボロに傷んでいる。だがそれはピーマンも同じ、光沢に覆われていたはずの表面には、大小さまざまな傷がついていた。  敗北を認め肩を落とすピーマンに、キャベツは歩み寄る。 「やり直そう。僕たちと一緒に、もう一度……」 「それは、ならぬ」  戦う意思なき者を斬らぬのは、キャベツ元来の性分だ。しかし、ピーマンはキャベツの誘いを拒否した。 「貴殿は情にほだされた甘ちゃんではなく、魔王を討ち滅ぼした真の勇者として凱旋せねばならん」 「しかし――」 「民に威厳を示すのもまた、王の務めなのだ」  王。魔王を討ち、姫を救い出したなら、確かにキャベツが次代の王となる権利を得る。 「僕が、王」 「貴殿が見出した答えを正しいと信ずるなら、おのが正しさを証明し続けよ。民を導くのだ、勇者キャベツ。それが、我と異なる道を選んだ貴殿の責務でもある」 「ピーマン……」 「暗い顔をするな。命は巡るのであろう? これが終わりではないはずだ」  ニヤリと口角を上げるピーマン。ピーマンは覚悟を決めたのだ。 やらねばならぬ。キャベツも覚悟を決めた。収めた剣を、再び抜き放つ。 「――御免!」  いまひとたび白刃が閃き、音もなくピーマンの体を薙いだ。 「見事でした、勇者キャベツ」 「姫」  戦いの一部始終を見届けたキャーロット姫が、勝者となったキャベツの手を取った。 「戦いの顛末は全て、このキャーロットが我が父トーガンに伝えましょう」 「お願い致します――あっ」  勢い余って姫の手を握り返してしまい、慌てて跪くキャベツ。そんなキャベツに姫は微笑して、つないだままの手をかかげた。畏まる必要はないと、そう言っているのだ。 「あなたが望むなら、私はいつでもあなたの妃となりましょう」  立ち上がり姿勢を正したキャベツに、姫は婚姻の意思を示した。単なる約束というのみならず、王となる資質を認められたということでもある。
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