第一章 希望をはこぶものたち

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 夢を見ていた。  何かが、そう何かが自分の手のなかで光り輝く夢。  それが何であるのか、どうして自分が持っているのか、そのあとどうなるのかも、わからない。ただ自分の持つ何かが、輝きを放つ。  このところ毎晩のように見る夢を、今また見ていた。だんだんと大きくなる光で周りが満たされていき、すると目が覚める。その時を見計らったかのように。 この夢の始まりも終わりも、いつも同じだった。 「おいキャベツ、もうすぐ試合が始まるぜ。起きろ」  不意に声をかけられ――やはりいつもと同じ場面で目を覚ますことになった夢の主キャベツは、寝ぼけまなこであたりをうかがった。見慣れた我が家とはどうも様子が違う。 「試合……試合。そうか、僕はお城に来ていたんだっけ」 「フッ。御前試合の合間に昼寝とは、余裕だな」 「昨日は気持ちが高ぶっていてね。つい……」  今日この日、お城では武闘大会が開催されていた。  戦士キャベツは順調に勝ち進み、残すは決勝戦のみ。準決勝と決勝のあいだに設けられた休憩の時間、キャベツは居眠りをしてしまったようだ。 「しかしジャガイモ、君が来たということは」 「ああ。次の相手はこのオレ、つまり決勝はオレたち二人の戦いになるわけだ」  キャベツとジャガイモ、両者はよき友人であり、またライバルでもあった。これまでにも幾度となく競いあい、剣の腕を磨きあって来た、そんな仲だ。ただ。 「今日こそは勝たせてもらうぞ、ジャガイモ」 「そうはいかない。特にこの試合だけは、絶対に負けるわけには」  これまで何度となくジャガイモに戦いを挑んできたキャベツだったが、ほとんどの場合、勝つのはジャガイモだった。  実力の差はわずかだ。それはキャベツにも、おそらくジャガイモにもわかっている。いつも惜しいところで勝利をさらわれてしまうのだ。紙一重の差がどうしても埋まらない。  対戦成績では圧倒的にジャガイモが有利だ。とはいえキャベツが勝つことももちろん有りうる。戦士として、優勝に憧れないわけではない。  しかし今日のジャガイモの気勢は並々ならぬものだった。無二の友であるキャベツも、ジャガイモがこの試合に力を注ぐ理由はよく理解している。  ああは言ってみたものの、今回ばかりはt確実に友人に花を持たせるべきか――キャベツはふと、そんなことを考えた。
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