2/20
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
 今年の春休みほどつまらないものは無かった。    しかも入試で地元の公立高校を落ちた僕は、仲のいい友人たちと遊ぶ暇がなかった。  なんとか受かった滑り止めの私立高校に入学するため、独り暮らしの準備を進めていたからだ。  ――マジ、不本意だ。  こんな山の中。Wi-Fiがなきゃ、電波が届かない環境なんてあり得ない。  入学祝にスマホを強請ってみたが、ママが与えてくれたのは時代遅れなガラケー。 『これならつながるでしょ』  ほくそ笑んだママの顔が憎らしかった。  スマホもパソコンも、一階のロビーでしか使えない。ここにしかWi-Fiがないからだ。  ロビーなんて呼びたくないな。  まるで古い病院の待合室並みのセンスのなさとボロさ。  かび臭い寮の部屋はラッキーなことに一人部屋だったが、それはこの学校が不人気で生徒数が少ないってことを意味していた。 「今どき全寮制とか無いよな」  思わず愚痴を口にした。 「何言ってんの。こんな辺鄙なところ、通えるわけないでしょう。  ちゃんと勉強しなかったあんたが悪いのよ」  ママは手厳しい。 「だからって、こんな学校じゃなくってさ、もっと他の高校を受けさせてくれたら」 「うちは母子家庭なの! 私立高校の中ではここは格安だったんだから」  そんな理由で三年間をこんな山奥で暮らす羽目になるなんてさ。  けれど僕の不幸はこれからが本番だったのだ。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!