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「お父さんやお母さんが心配しちゃうよ?」
手に力が込められる。
「……お父さんも、お母さんも、いない……、」
再び引っ込んでいた涙が溢れだしギョッとする。泣かれるのは苦手なんだ。落ち着かせるようにトントンと背中を擦りなんとか涙が溢れ落ちるのだけは防ぐ。
どうしたものかと天を仰ぐ。濃藍の空にはポッカリと月が浮かび満天の星の輝きを微かに奪っていた。
それを見ていたらなんだかどうでもよくなってきて、何となく笑いが零れた。
「……少年は帰りたくないんだね?」
「うん……。」
「じゃあ今晩はお姉さんと遊んでくれないかな?」
「へ……?」
僅かに涙に濡れた長い睫毛がぱちぱちと上下された。
「夜が明けたら君はおうちへ帰る。それで良いかい?」
「……い、良いの?」
「ふふ、良いよ良いよ。お姉さんひとりぼっちで寂しかったからね。」
そう言うと首に腕を回されぎゅうっと抱きつかれた。
「僕も……ひとりぼっちなんだ。」
「……そっか、じゃあ今夜はふたりぼっちだねぇ。」
ヘラりと気にした風もなく笑うと少年もハニカミながら笑ってくれた。
「それじゃ、散歩でもしようか。しっかり掴まっててね?」
「うんっ!」
楽しそうな少年を腕に、私はゆっくりと空中に踏み込んだ。一夜限りの神隠し。山神様も許してくれよう。
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