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前髪がそろそろ鬱陶しくなってきたなと考えながら、ほとんど無意識に自分の髪の毛を弄っていると、不意に時哉の白い指先が伸びてきて、早乙女のこのところの激務で少しばかり以前よりも削げたようになっている頬へと触れた。
「顔色、あんまり良くないよ?また、寝てないんでしょ?」
時哉の白く形の良い指が、早乙女の痩せたせいで、ますます精悍さの増した頬を優しく撫でる。
(……なんつーか、ホッとするな……)
身近に感じる甘ったるいような匂いは、時哉自身の体臭だった。
甘いものはあまり好きではない早乙女だったが、時哉の匂いだけは例外である。
「まぁ、少し無理な張り込みが続いたからな。でも、おまえの顔を見たら、すっかりと元気になったぜ?」
冗談めかした口調でそう囁きながら、早乙女は甘ったるい匂いのする年上の恋人の身体を、腕の中へと抱き締めた。
早乙女の行動に、時哉は「おおっと」と慌てたように、片手に持っていた洋菓子の箱を近くの棚の上に避難させた後で、仕方なさそうな様子で早乙女の広い背中をポンポンと宥めるように叩いてきた。
「もー、なぁに、ガラにもないこと言っちゃってんですかぁ?こりゃあもう、早乙女くんは相当疲れてると見たね?」
口調こそ、いつものふざけたそれだったが、早乙女の顔を覗き込んでくる時哉の琥珀色の瞳は心配そうな色を湛えていた。
「そう思うなら、せいぜい俺のことを癒してくれや」
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