第一章

7/47
前へ
/155ページ
次へ
 時哉に指摘されるまでもなく、早乙女は心身ともに疲れていた。  だが、明日は久しぶりの非番と言うこともあって、早乙女は山田に恨めしげな眼差しで見送られながらも、警視庁から時哉の事務所へと直行してきたのである。  それもこれも、自宅で一人で疲れを癒すよりも、恋人である時哉に疲れを癒して欲しいと早乙女が本気で願っていたからだった。 (……我ながら、らしくないことくらいは先刻承知だ)  以前の早乙女なら、たとえ恋人でも、相手に弱味を見せたり甘えたりすることなど、絶対にしなかった。  基本的に、べたついた関係が嫌いだったので、彼女の家に泊まることさえ滅多になかったと言うのに……。  時哉と深い関係になってからは、非番の前日は大概彼の元に泊まるので、ある程度の着替えや私物は時哉の事務所にも置いてある。  べたついた関係が嫌いで、交際相手には毎度のようにクールで淡白だと責められていた早乙女の姿など、今や過去の話だった。  今日も今日とて、持ち物と言えば、財布と携帯と身分証明書と煙草を持っただけの状態で、早乙女は時哉の元へと飛んで来ていた。     
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

345人が本棚に入れています
本棚に追加