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終章
驚いたことに、数馬は本当に新吾と芽衣のことを、それからすぐに無傷で時哉の元へ送り届けてくれた。
残念ながら、二人は攫われた前後の事を何も覚えていなかった。
おそらくは、これもまた、義兄お得意の催眠暗示とやらのせいなのだろう……。
とりあえずは、大事に至らなかったことだけは、不幸中の幸いと言えた。
詳しいことは知らないが、『ゲーム』を中止すると言う義兄からの伝言を告げると、早乙女は何とも複雑な表情になった。
怒りと安堵がごちゃまぜになったような表情をしながら、「畜生!」と低く吐き捨てたが、それでも新吾と芽衣が無事だったことにはホッとしたようだった。
大事には至らなかったとは言え、指名手配犯である渡会数馬が絡んでいることもあり、時哉たちは事情聴取のために早乙女の車で本庁まで出向くこととなった。
道中、何となく車の窓から外を眺めていた時哉だったが、行き交う景色の合間に、こちらに向かって片手を上げている義兄の姿を見かけたような気がして、心の底からゾッとしたのだった。
(まったく、ふざけてる……。あの人は、モリアーティ教授でも気取るつもりなのか……)
ホームズの永遠のライバルとして有名な天才的犯罪者に、狂気に侵された義兄の姿を重ねながら、時哉は襲い来る疲労に目を閉じた。
そうしながらも、数馬との事は必ず自分の手で決着をつけてみせると、時哉は改めて心の中で強く誓ったのだった。
おわり
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