345人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ああ。殺伐とした事件続きで厭になるぜ」
早乙女が勤めているのは、本庁の捜査一課である。
扱うのは殺人事件、それも所轄だけでは手が回らないような、凶悪で猟奇的な殺人事件ばかりと相場が決まっている。
勿論、早乙女とてそれ相応の覚悟を決めて刑事を目指したのだが、普通の神経を持つ人間としては、救いのない事件に遭遇するたびに、どうにも殺伐とした気分になるのは仕方のないことだった。
「そう言えば、早乙女くんはどうして刑事になろうと思ったの?」
何気ない口調で時哉に問われて、早乙女は「ああ……」と呟いた。
少しだけ苦いような口調になるのは、彼にとってはさほど崇高な理由があって刑事を目指したからではないからだった。
「俺が刑事になろうと思った理由か?さして、珍しい話じゃないぞ。親父も刑事だったから、それに倣っただけの話だ」
そう、ありふれた話だった。
早乙女の父親も、以前は所轄署で刑事をしていたのである。
「へぇ、早乙女くんのお父さんも刑事だったんだ。今でも現役なの?」
時哉からの無邪気な問いに、早乙女は苦い表情のままで「いや……」と言って首を左右に振った。
「まぁ、生きてりゃ、今頃俺と一緒に事件を追ってたかもしれねぇな」
最初のコメントを投稿しよう!