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第一章
早乙女が時哉と初めて会ったのは、今から三ヶ月ほど前のことだった。
この時、早乙女はとある殺人事件の容疑者の行方を捜していた。
容疑者の名前は、奄美祐市。
長野県山中で無残な他殺体として発見された、伊澤遼子と言う名の若い女性の恋人だった男である。
当初、警察は被害者である伊澤遼子と同時期に行方不明になっていた祐市を、事件の重要参考人として追っていた。
早乙女も、相棒である山田と一緒に祐市の行方を追っていたのだが、その捜査の過程で、自分たちよりも先に祐市の身辺を嗅ぎ回っている男の存在を知った。
その男こそが、祐市の母親である奄美裕香から、息子の行方を捜すようにと依頼をされていた探偵の久坂時哉だったのである。
時哉の正体が探偵であることは、すぐに調べが付いたので、新宿にある時哉の探偵事務所へと、早乙女は山田を伴って向った。
正直に言うと、早乙女から見た時哉の第一印象は、ほとんど最悪と言っても良いものだった。
時哉には、飄々としていて掴み所がなく、軽薄な態度を取りながらも、どこか達観した瞳でこちらの出方を窺っているような所があった。
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