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若杉は何一つとして手がかりを掴むことなく家に帰った。
駐車場にはくたびれた軽トラとその隣にあるには不自然なフォルクスワーゲンがあった。
若杉の父親は漁師なのだが、数年前に一時期大漁だったことがあり、普段手に入ることのない大金に何を思ったのか、フォルクスワーゲンを買ったのだ。
若杉はこの車を見るたびに家に似つかわしくない、だとか金の無駄だと思うが一度そのことで父親と喧嘩をしてからはその話をしなくなった。
「ただいま」
「おう、飯できてるぞ」
食事はほとんどが売れ残った魚なのだが今日は違った。
「おい、どうしたんだ親父。やけに豪華だけど」
食卓にあったのは大きなステーキにサラダ、スープもあり、いつもはご飯なのにその日はパンだった。そしてこれ見よがしに神戸牛と書かれた紙も置いてあった。
「今日は久々に大漁だったのさ。ほら早く食うぞ。冷めちまう」
大きな事件が起きているのに自分だけこんな食事をしていいのかと思っていた若杉だが。
「うわ!なにこれ!うまっ!」
一口食べた瞬間にそんな気分はどこかへ行ってしまったらしい。
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