第1章

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「…ごめんなさい。」 制服姿の女子は、校庭で部活中の男子に対して必死に頭を下げた。 線が細く、真夏に汗だくとなり…息も切れている。 おそらく走って来たのだろう。 しかし、謝罪の意思があろうがあるまいが…部活中の男子は女子を許すつもりはないらしい。 「野球部が飛ばした野球ボールが、サッカー部の練習中のグラウンドに飛び込んだんだよ! どうしてくれるんだ?」 大会も近いとみな気が立っているのか、単に引き締まっているのか。 もっとも、運動部のいざこざを解決しようとしているこの女子は両方の部活に属すマネージャーとかではない。 彼女はそもそも文化系の部活だ…気合いが入った運動部どもの掛け声と声援がうるさいので文化系はいつも落ち着かない。 それで、トラブル処理の代行をせねばならなくなる。 野球部とサッカー部は部活の花形だから、文化系の部活は人気者の彼らと事を交えることは出来ない。 うるさいから黙ってろと言おうものなら、運動部の親衛隊女子がえげつない手を使って文化部をいびり潰すだろう…どんな手を使うかは口にも出せないが。 何故だか、野球部とサッカー部やバスケ部などにはそんな暗黙のオーラがあるのだ。そんな威圧的なオーラに屈する文化部が頭から出て、下手に恥を晒してなめられると文化祭などで後が困る。 で、文化部はカースト最下位の部員につまらん後始末を任せるのだ。 「謝るぐらいなら、何とかしろよ!」 2×9=18回愚痴られるだけだ…それだけで学校の平穏は守られる。 彼女はそう信じていた。
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