7.回想曲

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「本当か!十年前だったな、前に歌われたのは!奇跡の歌を唄える歌い手はもういないと思っていたが」  奇跡歌と言われる歌は四人の天才的な歌い手がいないと成立しない事象を指したものだ。四人の歌い手が集う、まさに、そのことが奇跡。  国王のパラードの結婚式もそうであるが、奇跡の歌が再び唄われるというのは三カ国に更なる朗報となり伝わった。  もちろん、その話は三カ国以外の国々にも伝えられた。  いつもと違い、十年で奇跡の歌が聴ける。それだけで、多くの人が奇跡の歌が披露されるサイド王国に集まってくるのだった。サイド王国に通じる通り道にあるウッドール公国もアイビック王国も通年にない大層な賑わいとなっていた。  いつも以上の活気に包まれた街の様子は、更衣室で結婚式用の衣装に着替えていたパラードの耳にも聞こえていた。人が活気づき喜びに溢れるということは、国王であるパラードにとって喜ばしいことだ。 「私とウォー・リーの結婚と奇跡の歌に多くの人が集まってくれたのは嬉しいが、不思議な気分だ。もうじき、ウォー・リーと一緒になると思うと」  四十を過ぎても結婚しないで、独身を貫いてきたのは別にウォーの為ではなかった。ただ、結婚というものが不思議としたいとは思わなかった。このまま、ずっと独り身でいるのが当たり前だと。そんな彼の世界観を壊したのが、声が高いウォーであった。パラードと同い年だった彼女の場合、誰よりも結婚願望が強く、早く結婚したい、結婚したいと独り言を繰り返していたのを彼は覚えていた。  どういう経緯でウォーと結婚してもいいと思ったのかパラードは覚えていない。ただ、気が付いた時に、ウォー・リーという女性は自分にとってかけがえのない人になっていた。そういうものなのだろう、誰かを愛するというのは。ごく自然的で当たり前のことなのだ。だから、パラードはウォーにペンダントを渡した。 「幸福は形にならないと誰かが謂っていたが、それは物理的な話だ。こうして、幸福というのは目に見える形であるのだから。な、ウォー・リー」  パラードが振り返ると、いつものドレスではなく、この日の為に仕立て直したドレスを着たウォーがいた。パラードには彼女が近くにいたことを音で知っていた。この日ばかりは、彼女は落ち着いた声で、
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