7.回想曲

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 サイド国は周囲を人が住めるほどの外壁に囲まれた国である。山岳地帯というのも相まって、その様相はまるで天然の要塞都市とでもいったところだろう。“公国”でも“王国”でもない一国家であるが故に、当然のことながら王族というのは存在しない。  しかし、サイド国の端、一般人は滅多に訪れることのない、切り立った崖に沿うようにして城が建てられていた。長年、国を守っている外壁と同じくレンガには苔が生えたり、一部が風化、劣化している様は近年の建造物ではないことが分かる。もう何十年、いや何百年もその城は、そこに存在していなければ、この風合いは出ない。  王族のいない国には必要なさそうな城である。かといって、民間人が利用しているかと言えば、そうではない。建てられた場所が場所だけに、普段から暮らすには利便性が良いとはいえない。城で暮らすよりは、外壁や国内で普通に暮らした方がいい。好き好んで、そのような場所に暮らすモノはよほどの物好きか、それなりの事情がある人になる。  寡黙な彼、パラードの場合は後者に当たる。森に張り巡らされた小道でネロ達と合流できたら彼らは、パラードに案内される形でサイド国に戻ると裏道を使い、不便な場所に建っている城に連れられこられた。 「・・・・」  パラードは無言で城の中を指さす。どこでも好きな部屋を使っていいということなのだろう。トコリコは特に遠慮することなく、ようやく捕まえることができた歌倶夜が目を覚ますまで、彼を逃げられないよう見張っておける場所はないかをパラードに尋ね。パラードは黙ったまま、地下に続く階段を指差した。 「何かあるのか?」 「・・・牢屋」  パラードは小さな声で一言だけ言う。城のような建物に地下にある牢屋。ますます、中世のような城である。どうして、彼が地下牢のことを知っているのか。少しだけ気にはありはしたが、ここで暮らしているのならば知っていても不思議ではない。 「そうか。じゃあ、そこでコイツが起きるのを待つか」  歌倶夜を気絶するまで殴りつけた張本人は彼を煩わしそうに背負ったまま、地下牢に続く階段を下りていった。
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