7.回想曲

3/22
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
「私はどうしようかしら」  ピースは反重力の魔法で浮かせて、ここまで寝ている虎子を運んでいた。身体にネロのロープが巻き付けられ、魔銃器と繋がれている様子は、まるで風船を引っ張っている子供ようである。魔法というのを知らないパラードにしてみれば、非現実的で不思議な光景であるが、ピースに聞こうとはしなかった。  どこの部屋で寝ようと自由だろう。城は大きく寝室は幾つでもありそうだった。ピースは気まぐれで浮かぶ虎子を引き連れたまま、ホールから続く階段を上って二階に上がると、目についた部屋に入る。パラードが一人で城に暮らしているので、全ての部屋に清掃が行き届いているはずもなく。ピースが選んだ部屋は埃がうっすらと積もっていた。 「ゲホゲホ」  舞った埃に軽く咳き込みながらピースは虎子を浮かしたまま、魔銃器を壁に立てかけると閉じられたままになっていた両開きの窓と部屋のドアを開け、風通しを良くする。  山を吹き抜ける風がサーっと、音を立て部屋を通り抜けると、少しは部屋に積もっていた埃っぽさが抜けた。ソファーを魔銃器の柄で軽く叩き埃を払うと、虎子をそこに降ろす。  虎子をソファー寝かせると、ピースは改めて部屋を見渡す。窓とドアを少しは埃っぽさを払いはしたが、まだまだ完全ではなかった。ソファー同様にベッドにも埃が積もっていた。今までだったらベッドごと魔法で浮かせて表で埃を払っていたが、今は違う。魔銃器が改良されたおかげで微粒子である埃に対してでも重力魔法が使えるようになっていた。対象物が小さければ小さいほど、重力魔法を使うのは難しくなるものだが、魔銃器に組み込まれたジャイロシステムは思った以上に使えた。  ピースは“重圧たる罪の制裁(グラディッジ)”の魔法を使い、埃だけを魔銃器の先端に集めると圧縮し、埃を一つの塊にしてしまい、ゴミ箱に捨てた。本来なら掃除だけで一時間は掛かる作業を数秒でやってみせる。 「よし!」  埃が取り払われ綺麗なったベッドにピースは改めて寝そべった。前の世界でもホテルのベッドで寝ていたが、こっちのベッドの方が柔らかくて弾力もあった。埃は多くても質のいい材質で造っているようだ。おそらく、ウッドール公国製のベッドなのだろう。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!