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「・・・あの魔女・・・」
ピースはベッドで仰向けになると、ジュエリのことを思い出していた。仲間を失ったという点では、自分と似た境遇を感じる。もっとも、ピースの場合は築き上げてきたものを全て、失った。所属していたカナシア隊も、家族も、自分という存在ですら。
それでも、ピースはジュエリのように誰かを、世界を呪おうとは考えなかった。自分の境遇を理解してもらいと思っても。
ジュエリの場合は、理解してもらいたいが為に不幸を世界にばら撒いている。それでは、彼女が嫌悪している〈スロク〉となんら変わりないことではないか。
「魔女は私がとめないと・・・」
かつては同じ『魔女』とも呼ばれていた者としてはジュエリを放置しておく訳にはいかない。この世界で何が起きようとしているのか、今は分からない。ただ、明日の朝にでもジュエリと対峙しなくてはならない。
彼女の目を覚まさせるには。
パラードの部屋は城の最上階にあった。他の部屋とは一線を引く豪華な装飾を施された部屋で、壁には幾つもの白黒写真が楽譜と一緒に飾られていた。
少し前まで、この国が“王国”と呼ばれていた頃の懐かしい写真ばかり。その一枚をパラードは手に取る。写真には気が強そうな女性が写っていた。彼女の首にはパラードが身につけているペンダントと同じデザインだった。
パラードはペンダントを首から外すと黙って写真の前に置き、目を閉じて瞑想する。この時だけは、彼は嗄れた自分の声から本来の声である野太く男性らしい声で彼女に対して歌を唄おうとする。
けれど、それは妨げられる。隣の部屋から聞こえてくるネロの喘ぎ声に。
森の中で色々とやっておきながら、今度は城でも。
気分が台無しになる。パラードは表情を曇らせ、声が聞こえる隣部屋にでも殴り込みでもしようかと考えるぐらいだ。
彼らが悪い連中でないことは、パラード自身分かっている。遠くの音でも聞くことができる彼の耳はずっと、この世界に彼らが現れてから声を聞いていた。
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