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「お、おまちください!」
大臣は呼び止めようとしたが、その声は足音にかき消され聞こえることはなかった。
城の最上階の奥に謁見の間があり、サイド王国の国王であるパラード・ディルドは、そこで大テーブルに広げられた地図を眺めているところだった。
「パラード!いらっしゃるのでしょう!」
女性は甲高い声と共に謁見の間の扉を開けると中に入っている。パラードは両耳を指で塞ぎながら煩わしそうな顔をしていた。
「ウォー・リー。騒がないでくれるか。お前の声は、ただでさえ甲高いソプラノなのだから。キンキンと頭に響いてくるんだ」
耳が良すぎるのも考えものだ。女性が階段を駆け上がってくる音、大臣との会話、その全てがパラードに聞こえていた。大人しくしている時は問題ないのだが、こうして声を荒げられると、ただでさえ甲高い彼女の声がパラードの頭の中で反響して頭が痛くなる。
「そんなこと私が知りませんわよ。それより、私との式はいつ挙げるのですか!」
サイド王国の民間守備隊隊長であるウォー・リーは純白のドレスで身を包み、謁見の間に入るなり声を荒立てる。その格好は、いつでも結婚できるというのをパラードにアピールしてする為でもあった。
「分かってる・・・。ウォー・リーとの結婚も大事だが、今、私は難しい話を両国の代表者と話をしているんだ」
「あははは。ウォー隊長は相変わらずですね」
「サイド王国は平和そうで何よりだ」
結婚願望が強いウォーを見て、ウッドール公国のパイン公爵とアイビック王国のウィック国王は笑って言う。
笑う両国の代表者を前にパラードは複雑そうな表情を浮かべる。
「平和なのは結構だが、その平和を維持する為にも協定を結ぶ方が先決だ。知っての通り、ウッドール公国とアイビック王国を隔てる山岳地帯のほぼ頂上にサイド王国がある。その為、長年、三カ国の国境線が曖昧なままでいた。今回の非戦闘地域の協定を成立させることができれば、少なくとも国境を巡っての三国間での小競り合いもなくなるだろう」
山岳地帯のような険しい環境は昔から、国と国との国境を決める上での重要な拠点になっている。しかし、いざ、厳密な国境線を設けようとすると、どうしても問題が起きてしまう。
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