4人が本棚に入れています
本棚に追加
外にいた先頭の男が、カイソンに向け大刀を振り下ろした。
低い天井を刀の切っ先が僅かに擦り、刀の勢いがややそがれる。
カイソンはその隙を見逃さなかった。
手に持った短刀で、男の胴体を鋭く払う。
「ぐふっ」
男は短い呻き声を上げ、仰向けに倒れた。
「殺しやしねえ。峰打ちだ」
倒れた男の体を乗り越えるように、二人目の男がカイソンに襲いかかる。
が、やはり刀が長すぎ、切っ先が柱に阻まれる。
カイソンは短刀を振ると、男は呻き声を上げてのけぞった。
三人目の男は、なぎなたで突いてきた。
今度は、阻むものがない。
なぎなたの切っ先がカイソンの腹を貫くかに見えた瞬間、なぎなたは力なく地に落ちた。
「助かった。一瞬、ひやっとしたぜ」
カイソンが後ろを振り向いた。
武器を持たないベンケイが、笑顔をカイソンに向けた。
「ふふ。油断しちゃダメですよ。カイソンさん」
倒れた槍の男の太ももに、無数の爪が突き刺さっている。
「修行の成果だな。俺たちと五条大橋で戦った時は、無意識に無茶くちゃに飛ばしてたのにな。ちゃんと狙って撃てるようになったんだ」
ベンケイは、人間を母親に、鬼を父親に持つ、女性である。恋人連れで旅していると世間に誤解されるのを嫌うウシワカの頼みで、男装している。
鬼の血を引くため、人間にはできない技を持つ。爪を武器として飛ばすことが出来るのも、そのひとつだ。
「ええ。このように」
ベンケイはカイソンの肩に右腕を乗せた。
「ちょっと肩をお借りしますよ」
ベンケイの手から発射されたものが、空を裂いた。
外にいた男たちが、バタバタと倒れる。
最後尾にいた総白髪の男が右手を高く上げ、元来た方向へ手のひらを振った。
「畜生。何が起きてんだか分からねえ。野郎ども、引き上げだ」
倒れていた男たちはかろうじて立ち上がる。
ベンケイたちに背を向け、走りはじめた総白髪の男の後を追う。
「待ってくれ」
これを見て最初にカイソンに倒された中年の男が立ち上がりかける。
その時、荒縄が飛んだ。
縄は男の体に巻き付き、動きを止める。
縄が後ろに引かれると、男は再び仰向けに倒れた。
ウシワカが男に歩み寄り、身動きが取れなくなった男の首筋に刀を
突きつける。
「俺は山伏や坊さんと違って、優しくないぜ。覚悟はいいな」
「やっ。やめろ。助けてくれえ」
最初のコメントを投稿しよう!