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先生は20代後半で、僕よりも十年は年をとっている。やせ形で身長は170ほど。ここら辺では大きい身長である。米農家とその加工商品ばかり作っているこの町の人々から見ればだ。先生によると、都会には、もっと大きい人逹がいるらしい。中途半端なこの場所で育ち、離れる機会がない僕としては、見る機会もないであろうが。
「待たせたね。耕すのに少し時間がかかってしまった。やはり一人でやるのはつらいよ。」
庭の縁側、先生がお茶を運びながらそんなことを言う。
「すいません。もう少し早く来れば手伝えたのに…」
「自分が食べれるくらいのものは自分で作らなきゃね。食べられる野菜に失礼だよ。どうせ、食べるのは私だけなんだから。」
そう言って僕の前に暖かいお茶を出し、僕の横に座る。それにしても…と。
「昨年のものだけどこれが最後だね。まったく…とても寂しいよ。」
「そろそろ、摘み取りの時期ではないんですか?」
「そうだけどね。最後と思っちゃうと悲しくなるんだ。」
「お茶は飲めるけど。ですか?」
「そう。いつでも飲めるけど…だね。」
庭に植えられてある花々が風に吹かれる。その風はもちろん僕にもあたり、また寒いという印象を強くする。これでも春なのだ。冬が終わり、また騒がしい季節を匂わせる。
「それにしても、今日はどういった用件なんだい?」
「はい、先生に一つ相談したいことがありまして。約束を取らせていただきました。」
「そんなかしこまる口調はやめてといったはずだよ。それにしても、相談...ね。」
「はい、相談です。」
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