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思わず鳥肌を立てる。しかし安治は、自分が何に驚いたのか、わからなかった。嫌悪感か、感動か――。言葉を継ぐより先に、それぞれの顔を見回した。
「エンケパロスよ」
ほしこが言った。
「エン……何?」
「エンケパロス。マチじゃ珍しくない、汎用型ロボット」
言って、ほしこはコーヒーを淹れ始めた。自分と安治の二人分。
受け取った安治は口をつけづらかった。タナトスの片方が、ずっと彼を見ていたからだ。
不意に「ああ……」と、そのタナトスが呟いた。
しゃべると思っていなかった安治は、喉を通り損ねたコーヒーにむせた。
「このあいだ会ったね」
「え?」
安治はその流暢にしゃべるタナトスを見返した。安治がいつも一緒にいるタナトスの髪は、腰まで届く長い白髪だが、その子のはやや黄味がかっていて耳の下までしかない。
安治は記憶をたどった。
「ああ、このあいだ会った子……じゃないよね? 髪の色と顔がちょっと、違うような……」
その子は、よく見ると女の子っぽい顔立ちをしていた。以前に遭遇した子は、もっとタナトスに似ていて、ふつうに男に見えたはずだ。
「記憶が継承されてるのね」
コーヒーを飲みながらほしこが言った。
「たまにあるのよ。近くにいると、何かの拍子で記憶が移っちゃうの」
「は?」
「その子、あなたが前に会ったのとは別の子よ」
「だよね。……これ、女の子?」
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