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初日
一旦通路に出て、「そっちだよ」と指示されるまま、空いているブースに移動する。
「えーと、パイスちゃん?」
座ってまず問いかける。確かそんな名前で呼んでいたはずだ。
短髪のタナトスは、ころころと笑った。
「それ、名前じゃないよ」
「あ、違うの?」
「あそこにいたのは全部『パイス』。意味は知らない。みんなそう呼ばれてる」
「ああ、個人名じゃないんだ。――じゃあ?」
質問を先回りして、パイスは首を傾げた。
「さあ? 名前で呼ばれることがないから。……好きに呼んでいいよ」
「名前ないの? 不便じゃない?」
「誰が? ディダスカロスが? 知らない。別に不便じゃないんじゃない?」
まだ始まったばかりだが、安治は舌を巻いていた。タナトスとだいぶ違う――。
タナトスは、基本的に感情が乏しく、言葉を選んでゆっくり話した。話す内容は別として、その話し方は安治があらかじめ持っていたロボットのイメージと合致した。
このパイスは、比較してだいぶ早口だ。抑揚も人間らしい上、タナトスみたいに人の目をじっと見つめて無表情に話すということをしない。何か飲み物でも欲しいのか、室内をきょろきょろ見渡して落ち着かない様子だ。
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