初日

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「何か飲む? もらってこようか」 安治が立ち上がると、 「うん、お願い」 と屈託がない。 安治はほしこの部屋へ行って、ココアと飴玉を受け取った。パイスはだいたい甘党なのだと言う。 「さっきの続きだけど」 「うん? 何か言ったっけ」 大玉の飴を選んで口に放り込んだパイスは、行儀悪く椅子の前脚を浮かせてバランスを取り始めた。 「名前、ないの?」 「ないよ」 「ほしこさんにも聞いたんだけど、好きにつけていいって……」 「うん」 椅子ががたんと音を立てた。卓上に肘をついて、わくわくした様子で覗き込んでくる。 続く言葉を用意していなかった安治は、あわてて視界を探った。 「えーと、じゃあ……ココアとか――」 「えー、安直ー」 「キャンディとか……」 「犬の名前かっつーの」 再び椅子でバランスを取りながらけらけら笑う。 「女の子っぽいしー」 タナトスと比べて女の子っぽいから……とは言えなくなってしまった。 「じゃあ……何がいい?」 「えー? 俺が決めんの?」 笑いながら発した何気ない言葉に、安治の違和感が作動する。 「――俺」 「あ」 短髪のタナトスは居住まいを正した。そしてわざとらしくにっこり笑うと、 「ボク」 と言い直した。     
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