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安治は、喉も乾いていないのに缶コーヒーを飲んだ。いたずらっぽい表情でジローが見てくる。
「当たり? ねえ、当たりでしょ」
「……うるさいな」
「うるさいってー」
けらけら笑って自分も缶コーヒーを飲んだあと、急にふてくされた表情でそっぽを向いた。
「だって、つまんないんだもん」
その目に涙が浮かんでいる気がして、安治は焦った。
「ごめん」
「は、なんで謝んの?」
こちらを見た目は光っていなかった。しかし先ほどより機嫌が悪くなっている。
安治は戸惑った。何を言っていいのかわからない。なるべく無難な話をと思うが、相手がパイスであること、タナトスの存在を意識させる話題を避けようとすると、何も思いつかない。
「ディダスカロス」
不意に安治の背後を見てジローが言った。ほしこが来たのかと振り向くと、扉のない入口のところでニヤニヤしながら北条さんが立っていた。そのまま何も言わず立ち去る。
「――それ、ドクターって意味?」
「ん?」
「その……呼び方」
「さあ、意味は知らない」
「なんで名前で呼ばないん?」
「名前で呼んじゃいけないんだもん」
「いけない?」
「安治、親を名前で呼ぶ?」
「ああ、なるほど……。親って意味なのかな」
「知ーらない」
チョコを一つ取ってふんぞり返る。タナトスと比べてだいぶ行儀が悪い。
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