『SINGULAR POINT』

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 人間も動物であるが、一番の大きな進化は、心の存在であるという。でも、進化というのは、闇をも産みだした。人は死のプログラムから逃れようとし、結果、新しい死のプログラムを産みだした。その中で、他者を殺して自分が生きるという、動物の意志が動く場合があるという。 「動物に戻ったのならば、自らを罰し殺しなさいと弥勒が言った」  石田は、本能で弥勒が怖くなった。  石田の本能は正しい、弥勒はただの人ではないであろう。でも、石田はそんな弥勒に惚れてもいて、関係を断ち切る事もできない。 「話したら、少し、すっきりしたよ」  石田が、タクシーを運転し帰って行った。 「どう思いますか、遠見さん」  通信機を置いていて、遠見に繋いでおいた。 「弥勒か。やっぱり、死のプログラムの弥勒かな」  自殺者を産みだしている、弥勒であるのか。 「口調からするとね、弥勒は、講師か先生かな」  石田の説明で、口調など分からなかった。言い回しであろうか。 「あと、又、自殺者がでるね」  他者を殺してとあったので、誰かを殺して自殺するということか。 「嫌ですね」  仕込みを早めに切り上げると、慶松とリビングでテレビを見る。こういう普通の時間が、ここに来てからは本当に少なかった。 「弥勒って何だろうね」  ただアドバイスするだけならば、犯罪にはならない。 「多分、弥勒も世の中のためだと思い生きているのだろうね」  宍戸も弥勒である気がする。孝弘の為に、他者を犠牲にする事に躊躇がない。 「俺は、明日は又仕事だ。今日は早く寝よう」  気持ちを切り替えてゆこう。 「そうだね。俺達も海や山でしたいね」  したくはない。結構、後遺症の残る行為であった。  翌日、会社に行くと、柴田に呼び出された。  営業のミーティングルームには、他に数人の営業がいた。  「柴田、どうしたの?」  大口の取引先の、常務の息子が行方不明になっているという。 「それで、犯罪絡みなのかな?」   大口に問題が発生すると、営業に響く。大崎も悩んでいるようなので、電気部品も関係している。他に、二課のメンバーも頭を抱えているので、継続して売り上げてしている大口ということになる。 「太田常務の使用する駅の付近で、男性が死んでいた」  死因は上から岩が落ちてきたことによる、脳挫傷だった。その岩が落ちてきた場所は、駅の近くの道路で、看板は落ちてもおかしくはないが岩はない。
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